あなたにおくる最後の言葉

弔辞など故人に向けた言葉を集めました





さいとう・たかをさんへ ちばてつやさん弔辞

 

たかをちゃんを偲んで

 

さいとう・たかをさん。あなたの突然の訃報を聞いたのは、昨年の9月24日でしたから、もう早くも1年になります。

1年たった今になっても、まさか私があんなにお元気だったさいとうさんを見送ることになろうとは思ってもみませんでした。

あなたは私より少し年上でしたけど、ふだんは親しみを込めて「たかをちゃん」と呼ばせてもらっていました。

代表作「ゴルゴ13」とも重なり、この遺影はとてもニコニコしていますけれども、ふだんはちょっとこわもてで、気難しそうな印象の人だから、そのサングラス越しにギョロッとにらみつけられるとたいていの人は足がすくんだんじゃないかと思います。

でもね、あなたは見かけによらず誰よりも周りを思いやる、とても優しくて思慮深いジェントルマンでした。

たかをちゃんはゴルフが大好きで、お互いになかなか時間がなかったにも関わらず、わしら年取った漫画家仲間たちとよく集まって、一緒にゴルフをやって遊びました。

たかをちゃんの腕は相当なもので、お元気なころは、そうついこの間までは、はるか遠くを歩いている前の組に打ち込んで叱られるくらいドライバーをよく飛ばしていたし、グリーンにのればのったで、愛用していたシャフトが木製の、カラミティジェーンと言いましたっけ、クラッシックなパターを自在に駆使して、とんでもなく長いパットを、それこそあなたが描くスナイパーのように冷静に沈めまくっていましたっけ。

そう、こわもての風貌にも関わらず、キャディさんや周りの女性にはとても優しく接するから、ずいぶんあちこちでモテていましたね。

仕事も遊びもすべてに大胆で繊細なゴルゴ13とたかをちゃん。

今の私には2人がまるで一心同体、記憶の中ではしっかりと重なって見えるんです。

劇画を制作するときにも、映画を作るときのような考え方をいち早く導入して、毎回作品の最後のページにエンドロールを入れて、脚本作家名、スタッフ、担当者の名前もすべて入れて。

監督、演出、資料集めなど、役割分担を徹底し、それぞれの工程をとても大切に尊重して、あのたくさんの作品を生み出し続けてきた先駆者で、昔からとても合理的で進歩的な考え方を持っていました。

そしてすでに半世紀以上も前から、漫画は子どもが読むものという時代だったのに、いずれ大人がコミックを楽しむ時代が来るんだということを予見して、成人誌、青年コミック誌の必要性を強く訴え続けていましたね。

「劇画」という漫画の一ジャンルを創生し、日本の漫画劇画文化をここまで大きく育んできたのは疑う余地なく、あなたの功績大です。
これほどの作家を失った漫画界の喪失感は深く、重く、はかり知れませんが、たかをちゃんが心から信頼して制作をともにしてきたさいとうプロの優秀なスタッフさんたちがさいとう・たかをの世界を今もうすでに、そしてこれからも、輝子夫人と共にしっかりと引き継いでくれているのでどうぞご安心ください。

今頃は生前、大の仲良しだった石ノ森章太郎さんや、藤子不二雄Aさん、古谷三敏さんたちと大好きなお酒でも酌み交わしていることでしょう。
たくさんの美女たちに囲まれてね。うらやましい限りです。

たかをちゃん。わしもまもなくそっちに行くので、待っとってね。

 

令和4年9月29日 友人代表 ちばてつや

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2022年9月29日 さいとう・たかをさんのお別れの会