あなたにおくる最後の言葉

弔辞など故人に向けた言葉を集めました





さいとう・たかをさんへ 秋本治さん弔辞

 

さいとう先生、僕ら世代は劇画少年誌に出てきた頃に夢中になっていた頃の少年で、いわゆる劇画少年という感じで言わせてもらいます
僕は今日はファン代表として読み上げることにします。

劇画が現れた頃はそれまで見たことない漫画が漫画誌に出てきた。
ストーリーも今まで見たことないし、絵も違って漫画がやっぱり劇画に変わって大人が読めるようになるんだなということを体感しました。
それまでは1人で描いていた漫画が、原作付きという漫画がその時増えてきて、何人かで漫画を制作するのが大人が読める漫画になるというのが、出版社も漫画家も築き上げた時代だと思います。

僕も劇画家を目指し、夢中になって劇画の漫画を描きました。
当時100ページくらいの劇画を描いたんですけど、それが重い劇画でその箸休めとしてこち亀を描きました。
そのこち亀が応募したらなんと優勝してしまって、その年から連載になってしまったんです。
連載当時は秋本君のギャグ漫画うまいねって言ってたんですけど、いやこれはギャグじゃなくて、ユーモアのある劇画です、そのうち言われたびに笑える劇画を描いていますって、ずっと劇画を主張していたんですけど、編集部ではちょっと厄介な漫画家になってきたので、これはギャグ漫画ですと後半は言うようになりました。

それで、ギャグ漫画でデビューしてしまったので、さいとう先生とは接点がないと諦めていたんですけど、どういうわけかコミック数の巻数で先生とご一緒することになりました。
当時はサザエさんや三国志などいろいろ巻数の多い作品が、もちろんゴルゴが1番上だったんですけど、あ、これで先生と並べるだけでもすごく嬉しいなと思っていたんですけども、だんだんだんだん周りが終わって、そのうち2人だけになってしまったんですね。ゴルゴに続くのはこち亀という感じで。

そういうのでギャグと劇画は全然違うものだけどっていつも言ってたんですけども、しまいには床屋でどっちが読まれているか対決になりまして、床屋で言うと先生の実家が床屋なので、それはすごい失礼な対比じゃないかと心の中で思っていたんですけども、取材来るたびにさいとう先生と並べられるので嬉しいところはありました。
それでそのうち巻数が並んでしまったんですね。
ゴルゴと同じ巻数になってしまって、その時にパーティで先生にお会いした時に「すみませんゴルゴと並んでしまいました」っていうと「巻数が多いということは仕事してる証拠だからいいことじゃよ」先生は笑って言われました。

その内、ゴルゴを抜いてきたんですね。「別に気にしないよ」と言ってたんですけども、さいとう先生はすごい負けず嫌いなんですね。
それは石ノ森先生が650ページを描くと言って漫画界一と言われた時、「いや、わしは正太郎よりいっぱい書くよ」、本気になってこう言っていたんですよね。
だから、先生は厳しい先生だと思っていたので、これ以上はあまり抜かないでくれと思っていたんですけど、ようやく200巻で完結してホッとしてたんです。

で、そのうちゴルゴもいずれ追いついてくるだろうとゴルフ場でよく先生と会う度にコミックスの巻数は言わないように、天気の話とかクラブの話とかしてなるべく話を逸らしていたんです。
そしたら去年の春ゴルゴがちょうど200巻迎えまして、で、ビッグコミックの企画で200巻会談どうですかって、もうこれ以上嬉しいことはない。
だから僕らにとっては、やっぱり先生は劇画の憧れの人だったので、もう会うなりいきなり言おうと思ったら、先生会うなり「200巻は通過点だよ」と言われて。
「もちろん知ってます。先生の描いてる本とか自叙伝とか全部把握しているので、先生別に200巻目指しているわけではないというのは十分分かります」とそっからまずスタートして。
それまで劇画がどういう影響与えたか、漫画界だけでなく漫画を目指していた僕達にも影響を与えて全員劇画を真似しよう、描こうという気持ちになって毎日毎日描いていました。

そのうち、劇画の話をする、今まで僕が見てた漫画の話をするチャンスだと思って、僕時代劇とかそういうのが好きなんですけど先生の描く逆テイストのスパイものが好きなんですね。
それを「シュガー」とか、「ホーキング」とか「デイブ」とか「ドーフ」。
その話を立て続けにすると「よう知っとるな」とエンジンかかって。
その場では言わなかったんですけど、劇画少年にとっては劇画の教科書なので、ここに並んでいるのもそうですけどほぼ全部見てます。

それから劇画少年の当然の教科書なので、見て知ってるいるのは当たり前だったんです。
先生はそのくらいの影響力がある方でした。
それでようやくその後ゴルゴが201巻になって、ようやくこれでよかった。名実ともに、世界一。
そのあとこち亀も201巻出ちゃったんですね。
これは、僕出ると思わなかったんですよ。
まさかの201巻ってかい、僕が一番驚いたんですね。
別冊で出るかと思ったらそのまま出ちゃって、また先生と並んじゃったと思っんですけど、今後は一切抜けないと思います。
抜く意思もないので。

これからはゴルゴの道を進めてもらいたい。
「銃器職人デイブ」。これはゴルゴの銃のドクターなんですね。
それでゴルゴがデイブのとこまできて無茶なことを言うわけですよ。
火薬量少なくて22口径で、1500キロ先のターゲット当てる弾を作れって言ってデイブがエッて驚くと、次の日のお昼には取りに来るからなって言って、そんで銃の弾に10万ドル、時間に10万ドル払う。
デイブはそれから徹夜で作るわけですね。
そんで次の日のお昼にゴルゴが行くとデイブは疲れて寝てて、枕元に一個中の弾が、一個だけ置いてあって、それでゴルゴばその20万ドル払って、それで試し打ちもできないわけですよ。
それを信頼して、もってって、デイブの顔を一瞬見て、ありがとうとは言わないんですけど、目でニヤッとして持ってくという、そのデイブのシリーズが僕大好きなんですよ。

さいとう先生は劇画は一人で描くのではない、専門の分野を集めてみんなでよって作り上げるものだ、それでみんなそういう形で作るぞというのを兼ねがねおっしゃってました。
その後「ファネット」とか「デイブ」を描いて、意欲的にやってる現場を見て、おそらく先生はよくやっとるな、ちょっと違うぞとか言いたいことがいっぱいあると思うんですけど、ニヤッと笑いながら、みんな俺の言うことをよく聞いて頑張ってやってくれってにこやかな顔をされているんじゃないかなと思います。

で、先生が育てた有望なさいとうプロのスタッフ、そして優秀な編集者、是非ゴルゴ13を夢の300巻に向けて続けていただきたいと思います。

頑張ってください。

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2022年9月29日 さいとう・たかをさんのお別れの会