あなたにおくる最後の言葉

弔辞など故人に向けた言葉を集めました





山中伸弥さんから平尾誠二さんへの弔辞

f:id:bakoji:20200107185256j:plain

 

平尾さん、久しぶり。相変わらずかっこいいですね。
僕は君と同じ年です。
高校生のときからずっと君に憧れてきました。
出会ってからは君のことが大好きになり、そしてものすごく尊敬しています。
君は病気が分かってから、さらにかっこよく立派でした。
君の病気が分かったとき、ずいぶん進行していて、 普通の人だったらぼうぜんとして、何もできない、そんな状態でした。
でも平尾さん、君は最後の瞬間まで病気と闘いました。
いろんな治療を試したね。
あるとき、「平尾さん、この治療は世界で初。やったことない治療だから、ごめん、どんな副作用が有るか分からない」と言いました。
すると君は心配するどころか顔がぱっと明るくなって
「そうか先生、世界初なんか。けいちゃん(妻の恵子さん)聞いたか、俺ら世界初のことやってるんや」。そんな風に言いました。
あるとき、 僕が病室を訪れた後、君はこう言ったらしいですね。
「なんか先生元気なかったなあ。大丈夫かなあ」。
君のことが心配だったんです。
僕が君を励まし、勇気づけなければならないのに、 逆にいつも僕が平尾さんに励まされ
ていました。
君が亡くなる前の日、病室でお会いしました。
声がなかなか出せず、聞き取ることができませんでした。
でも僕が「平尾さん、もうすぐおじいちゃんやな」といったら、はっきり分かる声で「まだまだですわ」と、はにかみながら、しかし、とってもうれしそうに言いました。
それが君との最後の会話になりました。
でも、最後の会話がそんな内容でうれしかったです。
君が元気なとき一緒に飲みに行って、いっぱいいろんなことを教えてもらいました。
一番心に残っているのは、「人を叱るときの4つの心得」。
亡くなってから思い出しました。
「プレーは叱っても人格は責めない」
「あとで必ずフォローする」。
ところが何ということでしょう。
二つしか思い出せません。
あとの二つが共通の友人に聞いても分からない。
平尾さんが「なんや先生忘れたんか。本当に(ノーベル)賞もうたんか」と言っている声が聞こえてきます。
でも2、3日前、ふと「もしかしたらメールにも書いてくれたんちゃうか」と思いました。
たくさんもらった君からのメールを一つ一つ読み返しました。
そしたら書いてくれていました。
あとの二つは
「他人と比較しない」
「長時間叱らない」。
君のようなリーダーと一緒にプレーでき、 一緒に働けた仲間は本当に幸せです。
僕も君と一緒に過ごせて本当に幸せでした。
平尾さん、ありがとう、そして君のことを治すことができなくてごめんなさい。
また、会えると信じています。
そのときまでしばらく。また会おうな、平尾さん。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2017年2月10日、神戸市中央区 神戸ポートピアホテルにて 平尾誠二さん「感謝の集い」

 

山中伸弥=京都大学iPS細胞研究所所長。2012年ノーベル生理学・医学賞受賞。

平尾誠二=ラグビー日本代表選手、のちに日本代表監督。