あなたにおくる最後の言葉

弔辞など故人に向けた言葉を集めました





吉岡秀隆さんから尾崎豊さんへの弔辞

 

初めて尾崎さんに贈る文章が弔辞になるなんて、こんなにつらいことはありません。

アイソトープの尾崎さんの部屋でこの文章を書きました。

尾崎さんのいないあの部屋にも、僕ひとり押しつぶすには充分な思い出がつまっていて、それでなくとも、ままならない体がいよいよどうにもなりません。

尾崎さんがいなくなって、人間の涙はとどまることを知らないことを知りました。

自分がこんなにもちっぽけで無力なことを知りました。

人は悲しみに出会った時、眠れない日々が続くということも知りました。

尾崎さんは何度眠れない夜を過ごし、どれだけの涙をながしたことでしょう。

転んでも転んでも立ちあがり、走り続けて行こうとする尾崎さんを悲しいぐらいに僕は好きでした。

自分の一番生きたい時間を一番自分らしく生きた尾崎さんを、僕は誰よりも誇りに思っています。

聞く人の人生そのものを変えてしまうほどの歌を、自らの命をけずるように伝えようとする尾崎さんは、僕に表現するということの本当の意味を教えてくれました。

何かを恐れ、前へ進めない時、僕の背中を押して大丈夫、大丈夫といって笑いかけてくれました。

人が本当に評価されるのは、その人が死んだ時なんだろうなといっていました。

尾崎さんのことを、誰が何と言おうと、僕が知っている尾崎さんは、もうこれからは誰からも傷つけられることなく僕の魂の中で生きていくのです。

尾崎さんは人一倍寂しがり屋だったから、これからはみんなの一人一人の胸の中で静かにゆっくりと休むことでしょう。

尾崎伝説は、はじまったばかりなのです。

最後の最後まで言えなかった言葉を贈ります。

尾崎さん、ゆっくり休んで下さい。

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1992年4月30日 東京 護国寺 葬儀・告別式

 

尾崎豊=シンガーソングライター。1980年代にカリスマ的な人気を獲得した。
吉岡秀隆=俳優。代表作に「北の国から」シリーズ、「男はつらいよ」シリーズ。